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川原 春幸氏 (本学会創設者)
「顎顔面バイオメカニクス学会に期待すること」

  人類はもちろん,すべての生物は地球重力下で生まれ育ち適応し, 順応しながら個体発生を繰り返し進化し,系統発生により今日に至っている.

  行動習性によってもたらされる生体への力学的刺激が骨・筋肉・軟組織の形態的変化を引き起こし、 その結果生体の機能を障害し、時には全身疾患の原因となることが知られております。

顔面頭蓋に位置する咀嚼器官は、主に機械的機能を担当する器官であり、 ;咀嚼機能が顔面や頭蓋の骨格に及ぼす生体力学的影響には顕著なものがあります。

  力学的刺激の影響を受ける各種の器官の中で、顔面頭蓋は生活習慣による機能の偏りや外力が骨格系に変形をもたらし、 顔面の変形症のみならず歯列不正、咬合異常、顎関節症、頸椎の側弯など多くの疾患を誘発することが 明らかとなってきております。顔面の表情は人間の精神神経活動を直接に反映するため、 長年にわたる咀嚼筋や表情筋の力学的刺激により、固有の人格と密接に関連した顔貌が形成されると考えられます。 咀嚼器官と並んで顔面頭蓋に関する生体力学的研究は、この領域における機能障害のみならず、形態的変化の機序の 解明や顎顔面の成長と発育にも深く関連している重要な課題であります。

  顎顔面の変形症に関しては、既に専門分野の学会が複数ありますが、 いずれも頭蓋あるいは顎顔面変形症の対症的な治療法の研究が中心となっており、 咀嚼器官を中心とした生体力学的な側面からの研究を目的としてはおりません。 以上の観点から医学、歯学、工学、理学はもとより、心理学、社会学など人文科学系をも含めた広範な領域の研究者が、 上記の問題を究明するための会を定期的に持つ必要性を痛感し、顎顔面バイオメカニクス学会を設立した次第です。 これからも本学会が諸問題を活発に議論する場であることを期待しております。