第20巻第2号
《原著論文》
チタンの耐食性と機械的性質に及ぼす熱処理の影響
Relationship between corrosion and mechanical strength of annealed titanium
坂 本 裕 紀1),瀬 崎 英 孝1),吉 田 憲 一1),淺 岡 憲 三2)
要 旨
チタンは耐食性,機械的性質,生体適合性に優れていることから硬組織代替材料,歯科材料として利用されている。しかし,歯科では歯面塗布液や歯磨剤に含有するフッ化物の存在下で著しく耐食性が低下することが報告され問題となっている。そこで本研究では,チタンに熱処理を施すことでその表面に酸化チタンの酸化膜を形成し,フッ化物に対する防食効果を調べた。すなわち,試料として純チタン線材を大気中600,700,800℃で焼なまし,表面酸化膜を形成した。その後,焼なましたままの試料と表面酸化膜を除去した試料を酸性フッ化ナトリウム水溶液に浸漬し,引張試験,疲労試験,昇温脱離分析により,チタンのフッ化物による腐食に対する酸化膜の保護効果を調べた。その結果,600℃で焼なました試料は浸漬により腐食が進行し,材料が劣化していた。700℃で焼なました試料は,浸漬7日間では顕著な腐食はみられなかったが,浸漬30日後の試料では著しく腐食が進行していた。800℃で焼なました試料は表面酸化による脆化が問題にはなるが,浸漬30日後でも機械的性質に変化はなく,フッ化物による腐食を完全に妨げることが明らかになった
Key words:チタン,腐食,酸化膜,フッ化物
《原著論文》
研磨材を含まないモロヘイヤ歯磨材の開発
Development of Mulukhiya Toothpaste without Abrasives
陳   克 恭1),荒 井 安 彦2),永 松 有 紀3),田 島 清 司3)
柿 川   宏3),高 浜 有明夫4),小 園 凱 夫3)
要 旨
食用野菜であるモロヘイヤを主成分とし,研磨材および発泡剤を含まない歯磨材を開発・試作して,その有用性を検討した。超低湿乾燥機を用いて室温で乾燥したモロヘイヤを粉砕して粉末状にし,蒸留水と混和して作製したモロヘイヤスラリーに歯垢・歯石が付着している抜去歯を5週間静置浸漬した結果,浸漬前と比較して顕著な色差を示した。肉眼観察によっても,歯面の明るさ,光沢に明らかな増加が認められた。5週目で歯石が一部除去された像も観察された。ブラッシング試験によっても,試作モロヘイヤ歯磨材は市販歯磨材よりすぐれた刷掃効果を示すことが確認された。用いたモロヘイヤ粉末からはクロロゲン酸など少なくとも4種類のポリフェノールが検出され,さらに,分光蛍光光度計を用いた試験によってモロヘイヤは強い抗酸化作用を示すことがわかった。歯垢の減少には,これらのポリフェノールが関与しているものと考えられる。以上の結果から,豊富な栄養素を含む食材であるモロヘイヤを利用した歯磨材は,研磨材なしで十分な歯磨効果を得ることができ,生体にやさしいだけではなく,口腔内の活性窒素を消去する効果あるいはその生成を抑制する強い抗酸化作用を示し,歯肉炎などを引き起こす細菌の活動を抑える効果も期待される有用なものであるといえる。
Key words:モロヘイヤ,歯磨材,歯磨効果
《技術論文》
メタルフリーを実現するためのジルコニアの材料特性
Properties of zirconia for the realization of metal-free restoration
伴   清 治
1.はじめにジルコニアはCAD/CAM システムの発展とともに,メタルフリーのオールセラミックレストレーション素材として普及してきている。これは,多くのセラミックの中において,ジルコニアの曲げ強さおよび破壊靱性が格段に優れていることが理由の一つである。応力が負荷されると体積膨張を伴う結晶転移が生じ,亀裂(クラック)先端に圧縮応力が働くため,結果的に亀裂の進展を防止するとされている1 〜 2)。この転移は炭素鋼や形状記憶合金の熱処理の場合に生じるものと類似したマルテンサイト転移であるとされている。このように,ジルコニアはセラミックであるのに,金属のような挙動を示し,今まで歯科修復材料として用いられてきたどのセラミック系素材にもない特性を示す。ホワイトメタルといわれている由縁でもある。しかし,歯科応用にあたって工業界では検討されていない独自の事項についても,基礎データを把握してゆく必要がある。例えば,口腔内修復物としては, ジルコニア製フレームをCAD/CAM システムで作成した後,サンドブラストし,その表面上に前装用長石系陶材を築盛・焼成し,外観と色彩を患者の歯に機能的に適合させる工程が必要である。このような,サンドブラストおよび焼成(加熱)により,ジルコニアフレーム自体の機械的強さが,どのように変化するのかも,明確にしてゆく必要がある。今回は,メタルフリーのオールセラミックレストレーションを実現するにあたって,考慮しなければならないジルコニアの材料学的特性について解説する。