第14巻第2号 3-12, 2000
《特別講演要旨》
歯科に於けるレーザー治療 ――現状と将来――
Laser Treatment in Dentistry ―Present and Future―
松本光吉
Key words:歯科,レ−ザー,現状,未来
 最近,レーザーが工業界や医科領域では勿論のこと歯科領域でも積極的に応用されるようになって来た。当教室では長年にわたり基礎的,臨床的な研究を行ってきたところ日常の歯科治療の分野に応用することが可能であることが判明して来た。つい20年前まではレーザーは殺人光線として多くの人達に恐れられ,歯科の治療に用いることなどとんでもない事として相手にされなかった事を思い起こすと感無量である。限られた短い講演時間内で,主に臨床応用を中心に,しかも,納得のいく基礎的な裏付けも加えて講演致します。
第14巻第2号 13-20, 2000
《特別講演》
歯科におけるレーザーの歴史をふりかえって
Historical development of Research in our Department on Laser Application in Dentistry
古本啓一
Key words:レーザー,微小X線回析,金属填塞接合部
 1968 年以来,われわれ(日本歯科大学歯学部放射線学教室,共同利用研究所)は,歯顎顔面領域に対するレーザーの研究と臨床適用を行ってきている。
 1993 年までの成果は,すでに「歯学におけるレーザー研究の25年」として歯学,80巻,5 号(1993)にまとめて報告した。
 今回はその後から今日までに行った研究(1)金属填塞接合部へのレーザー照射,(2)Er: YAG レーザーの歯質に対する作用の2点を従来からの成果の概要と合わせて報告した。
第14巻第2号 21-26, 2000
《原著論文》
第四級アンモニウム含有抗菌レジンモノマーの抗菌効果に関する研究
Antimicrobial Activity of Synthetic Resin Monomer Containing Quaternary Ammonium
越智守生,近澤慶,広瀬由紀人,久保裕治,坂口邦彦
Key words:第四級アンモニウム,抗菌性モノマー,抗菌効果,薬剤非溶出型
 歯科用レジンは,陶材や金属と比較して,プラークが付着しやすい材料である。レジン表面は,微生物の増殖をおこしやすい。本研究は抗菌モノマーを応用して,歯科用レジンに抗菌の性質を与えることを目的とする。
 我々は,歯科用レジンに抗菌の性質を付与するための物質として,塩化ベンザルコニウムに着目した。しかしながら,塩化ベンザルコニウムの溶出による細胞毒性,抗菌効果の低下や機械的性質の低下の問題点を回避しなければならない。従って本研究の目的は,薬剤が溶出しない抗菌性レジンの開発である。
 12-methacryloxy benzalkonium chloride(MBKC)は12-hydroxy benzalkonium chloride(HBKC)とメタクロイル基を反応させて作製した。実験に使用した抗菌レジンは,レジンモノマーに0.5% MBKCを溶解して作製した。
 今回の実験は以下の方法で行い,1)細菌の最小発育阻止濃度(MIC),2)MBKCを即時重合レジンに含有させた場合の抗菌効果,3)MBKC を即時重合レジンに含有させた場合の機械的性質,を評価した。
 本実験結果より,MBKC のMICは,S. mutans,A. viscosus,C. albicansで75 μg/ml,S. sanguis で150μg/mlを示した。MBKCは塩化ベンザルコニウムと同程度の強力な抗菌作用があった。
 MBKCを即時重合レジンに含有させた場合,C. albicansに対して,強い殺菌効果と細菌の増殖抑制効果があった。しかし,この効果はMBKCを即時重合レジンに含有させた試料からのMBKC モノマーの溶出によって起こることが考えられる。MBKCを即時重合レジンに含有させた試料のヌープ硬さは,対照群に比較して有為差が認められなかった。
 この結果より,試作抗菌モノマーは歯科用レジンに臨床応用が可能であると推察された。
第14巻第2号 27-35, 2000
《原著論文》
液体中で熱膨張や寸法変化を計測する装置の試作 ――第1報 装置の概要と乾燥石膏を水に浸漬したときの寸法変化――
The Measuring Apparatus for Thermal Expansion and Dimentional Change in Liquids −Part 1 Outline of Apparatus and Dimentional Change of Dental Plasters Immersion in Water−
吉田隆一
Key words:熱膨張,口腔内環境,微少寸法変化測定装置
 歯科に於ける食物摂取の温度範囲を考慮し変温区間を5〜60℃の範囲とし,この間で水,生理食塩水,リンゲル液,機能水など各種溶液を連続的に温度変化させながら循環させ,そのときの熱膨張を検出記録する装置を試作した。また,上記以外に測定槽に乾燥した試料をセットし注水(液)して,そのときの試料の吸水(液)による寸法変化や膨潤も計測できる。また,恒温水(液体)中に放置したときの経時的な寸法変化や硬化膨張なども計測できる装置である。
 以下にこれら装置を使用したときの結果を要約する。
1.本装置は小型の試料を用いて温度変化が約5〜60℃という口腔内環境に似た温度変化での膨縮を精度よく計測できる。
2.測定環境は水以外各種液体(リンゲル,生食,強酸性水やアルカリ水等の機能水)での測定が可能である。
3.恒温溶液(水)中での経時的寸法変化の測定ができる。
4.測定槽を乾燥し,ここへ乾燥試料をセットし,注水(液)することにより吸水(液)したときの膨縮や膨潤の計測ができる。
5.ステンレス鋼(SUS304)の熱膨張を計測すると平均14.6μ(5〜60℃,・=12.95o)で熱膨張係数は20.5×10−6/℃となった。  一方,アンバーでは平均2.0μm(5〜60℃,・=12.95o)膨張し,2.65×10−6/℃となった。
6.溶融石英では5〜60℃の間で1.13±0.08μの膨張が見られ,熱膨張係数は1.26×10−6/℃となった。そこでこの装置の補正が必要なことがわかり,上記測定値を補正してみるとステンレス鋼で18.39×10−6/℃,アンバーで1.39×10−6/℃となり,アンバーでほぼ文献値と一致した。すなわち,微小試料で温度差が少ないため,わずか1μの誤差で熱膨張係数は大きな差となるため基準試料(溶融石英,アンバー,ステンレス鋼)等で校正しながら計測する必要があることがわかった。
7.乾燥義歯床用レジンの吸水時の寸法変化を計測した結果,水が接触すると同時に約2μの膨張(・=14.5o)がみられ,時間経過とともにわずかずつ膨張し,2分後に2.5μ(0.00172%)に達した。
8.石膏の恒温状態の吸水膨張では普通石膏が平均0.0049%と小さく,次に硬石膏で0.0171%となり,超硬石膏が0.0213%と最も大きかった。さらに混水比の影響では普通石膏,硬石膏では固練りのほうが大きくなったが,超硬石膏では薄練のほうがわずかに大きくなった。
第14巻第2号 36-41, 2000
《技術論文》
歯科用Nd-YAGレーザマルチデリバリーシステム
Nd-YAG Laser Multi Delivery System for Dental
折井悟
Key words:歯科用レーザ,パルスNd-YAGレーザ,マルチシステム,無麻酔,ファイバ導光
 歯科用レーザとして,適用症例が多い事が評価されているパルスNd-YAGレーザを,さらに使いよくするため開発したマルチデリバリシステム(ネオキュアマルチ)は,集中管理した1台のレーザ発振器を歯科クリニックに設置し,そこから高エネルギー用光ファイバを最大6ヵ所の治療ユニットにあらかじめ敷設し,各治療ユニットにはコントロールユニットを設置しておく。これにより高価なレーザをタイムシェアして使用することが出来る。
 治療に使う時は,患者が座った治療ユニットに術者が移動しコントロールパネルのキーを押すだけでレーザ治療を始める事が出来,治療ユニットに備え付けの,タービン,エア,バキュームを使う手軽さでレーザ治療を可能にした。
このレポートでは,開発の経緯,製品の技術的な説明,特長,今後の予定等を発表する。
第14巻第2号 42-51, 2000
《技術論文》
レーザーによる歯科用合金の表面改質
Surface Modification of Dental Alloys Using Laser Irradiation
大熊一夫
Key words:鋳造クラスプ,接着ブリッジ,焼成銀インレー,レーザー根充,YAGレーザー
 高密度エネルギーのレーザーを用いて,歯科用合金の表面改質を行った。いままでにない二相構造の合金となり,適用範囲の拡大や新しい使用方法などが期待できる。
 今回は,レーザーを照射することにより,@表層を硬化させたり(レーザーを照射して表層のみを硬くすることにより,折れにくいクラスプとなるレーザー用金銀パラジウム合金を作製する),A表層を金合金化させたり(a:脱離しにくい接着ブリッジ 剛性の大きい合金に金板を圧接後レーザー照射により,咬合面のみを金合金化する。耐変色性の向上と対合歯の摩耗を防ぐことができる。b:焼成銀インレー 鋳造操作を伴わない金属製修復物を作製する。銀粉末と紙粘土からなる銀粘土を電子レンジで3分加熱することにより純銀インレーを作製し,耐変色性を向上させるために咬合面のみをレーザーで金合金化にする),またはB歯質に銀を溶着させた(根管充填の簡素化をはかる目的で,象牙質に銀を付着後,レーザーを照射する。金属と有機質が溶着し“レーザーによる根充”となる)実験について報告する。
 レーザーを応用することにより,薄い層の中でも物性を劇的変化させることができる。
第14巻第2号 52-58, 2000
《技術論文》
炭酸ガスレーザーによる歯周治療への応用
Application in CO2 Laser to Periodontal Therapy
鴨井久博
Key words:炭酸ガスレーザー,軟組織,硬組織,歯周治療
 近年,様々な歯科治療への各種レーザーの応用が試みられ,臨床的に良好な結果が得られている。その中の炭酸ガスレーザーを応用した歯周治療への可能性について,基礎研究を含め概要を紹介する。
 軟組織に対する応用
  1.組織内への到達深度
  2.歯肉色素沈着(メラニン色素沈着)除去効果
  3.歯周急性症状に対する応用
 硬組織に対する応用
  1.歯周病罹患歯根表面に与える影響
  2.実験的歯周炎に対する炭酸ガスレーザー照射が与える影響
 歯周治療おける炭酸ガスレーザー応用については,歯周組織においても軟組織,硬組織に対する応用が行われている。基礎的研究結果より,従来の各種レーザー処置の問題点を考慮することにより,炭酸ガスレーザーの臨床応用における軟組織および硬組織に対する歯根面処置および歯周組織再生に関する外科処置への新たな可能性が示唆され,今後炭酸ガスレーザーの歯周治療に対する一つの療法への可能性が見られた。
第14巻第2号 59-62, 2000
《技術論文》
Er:YAGレーザーを用いた窩洞形成とその修復について
Er:YAG Laser Application in Operative Dentistry
江黒徹
Key words:Er:YAGレーザー,蒸散,窩洞形成,修復方法
 Er:YAGレーザーは,歯質除去が可能なレーザーとして1988年に歯科に応用された。これまでの様々な研究結果を基に,Er:YAGレーザーを用いた窩洞形成は広く臨床応用され始めている。回転切削器具を用いた窩洞形成と比べてやや時間がかかるものの,キーンという機械音がなく,振動も少ないことから切削時の痛みを感じにくいという大きな特徴を有している。一方,Er:YAGレーザーを照射した歯質は,回転切削とは異なる表面構造を呈することが報告されている。エナメル質では鱗片状の凹凸を呈した表面形態,象牙質では象牙細管が開口した状態を呈する。また,照射表面には何らかの変性層が形成されるとの報告がなされており,今後これらの表面をどうするのかが大きなテーマとなっている。
 現在,窩洞そのものの定義が変わろうとしている。罹患歯質のみの除去で窩洞とされるならば,このEr:YAGレーザーも充分そのニーズに応えられるものであり,今後が楽しみである。